五條悟と時渡るJK〜過去いま運命論〜(dream)
□21-祈るJK
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屋上に閉じ込められたアミだけど、すぐに別の希望が思い浮かぶ。
あんだけ幽霊って騒いでたんだから、もしかしたら本当にバケモノが出たかどうか確認しに戻ってくるんじゃん?
その可能性にかけたアミはひたすら警備員さんたちが戻ってくる事を祈った。
このまま屋上に取り残されるくらいなら、まだ警察に補導された方がまし。
ていうか、せめて室内に入りたい!!
だけど、警備員さんたちが戻ってくる気配はなかった。
代わりにビルの下の方で救急車や警察のサイレンの音が鳴ってた。
誰か上がって来ないかな? アミ、ここにいいるよ!! 誰かっ!!ーーってお祈りしてたけど、ビルからパトカーも救急車もいなくなってしまって、アミは肩を落とす。
それでも色々、諦めずに頑張ってみたアミ。
でも、9/10に日付が変わりもう絶対に終電ない時間になった時に全部諦めた。
希望が無くなったアミは萎えすぎて、渋谷の屋上でメンタル死んで過ごす事になる。
※
屋上の柵に肘をつきながら、ゲーセンの店長さんからもらったココアをチビチビ飲む。
――なんで過去に来てまで、渋谷で野宿なんてしないとなんないわけ?
風は幸いにも、暑すぎもせず寒すぎもしなくてで助かったし、
高い建物の屋上だからか、虫もそんなにいないのも良かったけどね。
ちなみにバケモノは全然見えなくなったから、ミドリちゃんはしまっちゃった。
――あー、もう暇だなぁ…
目の前には相変わらず渋谷のピカピカな夜景が広がってる。
けど、いくら夜景が綺麗っていったって、4時間以上も眺めてたら飽きちゃうよね。
携帯はゲームで遊んでたのと、こまめに時間を見過ぎたせいで、電池の残量がヤバいからもうあんまり見ないようにしてる。
――あっ、そういえば、アミが施設の監視から外れてるのってこれが初めかも…
生まれてからずっと施設にいて、中学の時はよく家出もしてたけど場所は特定されちゃってた。
高校は一人暮らしだったけど条件付きだったし。
過去送りになってるとは言え、これが本当の自由なのかー。って思ったけど、野宿は全然嬉しくない。
なんでアミ、屋上に閉じ込められてるんだろう。って、今日1日を思い返してみる。
――バケモノにビビった警備員さんが屋上にカギをかけちゃったんだよね。
――その前にバカップルがアミの休憩してる所に乱入してきてウザかったー。てかあの男の子、キャバクラ武勇伝オジサンだよね? 顔がちょっと似てたもん。
――アミが休憩することになってたのは、大きなバケモノを倒して疲れてたからで…
――なんでバケモノを倒す事になったかっていうと、ごじょーさとるの記憶を消すためにアミが眠らせちゃったからで…
――どーして、こじょーさとるの記憶を消そうとしたかっていうと、夜の街でアミは遊びたかったからで…。
――だけど、アミがいま夜の街で遊べてない訳だから、あの時、薬を飲ませなければよかったかなー? うーん……
――いやいや、あそこで記憶を消さなかったら、どのみちアミ、ごじょーさとるの施設に連れて行かされてたし!!
――てか、ごじょーさとるに会ったのが全部の間違いだったのかも。なんで、ごじょーさとるに会う事になったんだっけ?
――“バケモノ”のごじょーさとるを殺すために、アミが過去にきて。で、そのごじょーさとるを殺すために過去でなんかした方が良いよねって思ったから、渋谷にきて……
――そうだ。一回だけ“バケモノ”のごじょーさとるを見ようと……
カランッ――手に持っていたココアの缶が手から滑り落ちる。
「……………うそっ」
アミはそこまで考えて、“最悪の考え”を閃いちゃった。
「いや、いや、ないない、ないって!」
自分自身に言い聞かせるように、アミは自分の事を抱きしめた。
「え、うそ! 待って待って、アミ、もしかして“ごじょーさとる”倒しちゃったの!?」
クソジジイが宿敵と言っている“ごじょーさとる”。
その特徴は、毛が白くて目が可笑しくて、デカくて強い“バケモノ”。
怖い事に、アミが倒した超大型の竜みたいなバケモノの特徴と同じなんだよね。
ぶっちゃけ、アミは混乱してた。
なんでアミがこんなに混乱してるかって言うと、“ごじょーさとる”を倒すとアミが元いた時代に戻れなくなるから。
アミが元々いた時代では“ごじょーさとる”は生きていた。
だからアミが自分のいた時代に戻るには、“ごじょーさとる”は生きていないといけない。
この時代で“ごじょーさとる”を殺せば、アミの帰るはずだった未来が消えちゃうの。
クソジジイのタイムスリップは、過去に行って世界を一から作り変えるなんて凄いなものじゃない。
アミがアミのいた時代に戻るためには、“ごじょーさとる”は生きてないとダメだった。
「……アミ、元の時代に戻れるかな?」
そこからアミは不安すぎて朝まで一睡も出来なかった。
※
「お願いします。アミが倒したのが、”ごじょーさとる”じゃ、ありませんよーに!」
朝日に向かってアミはガチでお祈りする。
でもね、アミ思うの!
あんな風にアミに2発でやられるバケモノだったら、ジジイたちも苦労しないよね? だから、あれはきっと“ごじょーさとる”じゃないと思うんだ!!
毛が白くて目が可笑しくてデカかったけど、強いかって言ったらそうでもなかったもん。そこそこだったもん! 強さ!
「だからだから、本当の神様お願いします!! アミを元の時代に戻してください!」
もうアミは、あのバケモノは強くなかったから、あれは“ごじょーさとる”じゃないって理由を信じてゴリ押ししてお祈りするしかなった。
――元の時代に戻ったら、ジジイたちに殺されるって分かっても、アミ、最後まで“きちんと”生きてたいです! だから!! お願いします!!
パキンッ――祈るアミの指から、金属が砕ける甲高い音がした。
※
顔に当たる朝日の温かさが無くなって、アミはハッと顔を上げる。
「お帰り、アミ」
クソジジイの汚い声から、元の時代に戻って来れたと確信するアミ。
ヤッタ! 神様ありがとー!――って感謝してから、迷わずウサタンポシェットの“バケモノのエサ”に手をかける。
「動くな」
ジャキッ――鉄がこすれる音に顔を上げると、クソジジイの隣に立つ大人がアミに銃を向けていた。
音からしてアミの持ってるエアガンと違って、本物って事が分かっちゃう。
ジャキッ、ジャキジャキ――そこかしこから、鉄の音が聞こえる。
ゆっくり周りを見てみたら、マホー陣の外から大人たちがアミに向かって銃を向けてた。
――関係ないよね。どうせ、施設の大人はアミの事は殺せないし、“バケモノのエサ”の制御だってきなッ
「アミ」
考え事の最中に名前を呼ばれて、アミはクソジジイを睨みつける。
「僕との約束をした事を覚えているかい?」
「……ごじょーさとるを殺すためにアミが過去に行くこと」
何度も何度も耳にタコかイカが出来るんじゃないかって聞かされた任務。
「そうだ。だが、勘違いしているようだ」
「勘違い?」
「僕は、過去に行くのは“1度だけ”とは言っていないぞ?」
ハッ? 何それ?――って、思ってる間に、ジジイはアミに向かって指示書が入った封筒と指輪を2つ放り投げてきた。
「ごじょーさとるを殺すために、再び過去へと渡れ。アミ」
「!?」
2回目の時間旅行の命令。
2回目があるなんて、そんなのアミは聞いてなくて、ビックリする。
「足りない頭で考えろ、どちらがお前にとって懸命か。すぐに分かる筈だ」
「……」
アミは冷静な部分で考える。
ここでジジイたちと一緒に死ぬか、もう一日だけ死ぬ日を伸ばすか。
「……いいよ。分かった」
今日死ぬか、もう一日だったら――アミは一日でも長く生きてたかった。
ウサタンポシェットから手を離して、指示書と指輪を拾う。
一個を指に着けて、もう一つをウサタンポシェットにしまうと指示書を胸に抱える。
すぐにマホー陣が光り出して、周りにも光が広がっていく。
一つ息をついて、アミは光の中ジジイに向かってニッコリ笑って中指をたてた。
「首洗って待ってなね。クソジジイ」
次の瞬間、アミの目の前は真っ暗になった。
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